ロック・イン・ザ・フリー・ワールド
スタジオに入らなくなって久しい。
数年前まで活動していたバンドはギタリストは流動的だったがリズム隊とヴォーカルは不動のメンバーだった。
音楽性としてはカントリー・ロック。
個人的にはもう少しハードな音をやりたかったがメンバーの適正を考えそこに落ち着いた。
10年程活動したがドラマーの健康上の問題が発覚し活動中止。
回復を待つことにしたが経過が思わしくなく結局、解散した。
女性のドラマーで初心者であったが、一叩きしてセンスがあることが分かったので知り合いのドラマーに先生を頼み鍛えてもらった。
幼少時にピアノ、学生時代に組んだバンドではヴォーカルをやっていたそうで、試しにスタジオで全てのパートをやらせてみたところ、その全てにセンスを感じた。
初めて触る楽器でも何とかしてしまう才能が彼女にはあった。
マルチプレイヤーの資質があったのだ。
さらに彼女には絶対音感があった。
音楽をやるべき人間だったのに長い間何もしてこなかったのは不思議だったが、この人の才能が開花したら、と思うとモチベーションが上がったし、その為の努力と協力は惜しまなかった。
リズム隊だけでスタジオにも入ったし、その度に彼女の成長を感じたし、上達が速かったが、徐々に異変を感じるようになった。
何かがおかしかった。
社交的でユーモアに溢れ、天然なところもありメンバー全員から好かれる存在だった。
感じた異変が気のせいであって欲しいと願ったが結果は悪い方に出た。
僕の出会ったミュージシャンの中には才能のある人間は沢山いたが、マルチな才能を持っていたのは彼女と友人のギタリストの二人だけ。
友人の場合は出会った時点で天才的だったが、彼女は開花前だっただけに、この才能を失うことが残念でならなかった。
その後も連絡を取ってはいるが、おそらくもう会うことはないのだろうなと思う。
僕がコンビ組んだ歴代のドラマーの中では才能だけなら彼女がナンバーワンだった。
今はただ回復を願うのみ。
【本日の一枚】
ニール・ヤング「フリーダム」1989年