ナブッコ (チューリッヒ・ミュンヘン音楽三昧 その6)

(写真がアップロードできないので、とりあえず日記本文のみアップしています。)

さて、私たちの音楽三昧ツアーもいよいよ大詰めです。

ミュンヘン二日目は、バイエルン国立歌劇場の「ナブッコ」。開演は7:00と比較的遅めですので、この日はゆっくりとミュンヘン散策を楽しみました。

とはいってもミュンヘンあるいはバイエルン州にはもう何度か来ていますので、この日は5月末の暑い日差しの中を街中を散策するだけにとどめました。うかつに遠出をして不正確な鉄道に振り回されるのもこりごりですし、疲れて肝心の劇場でウトウトというのも困ります。

一方で、海外旅行というのはついつい欲張りすぎてあちこちの名所旧跡を訪れるのに忙しく、ひとつの街をゆっくりと過ごすことがありません。この機会にミュンヘンをそぞろ歩きです。

ガスタイクホールのある文化センターです。大きな施設で、ライブラリーやリハーサル用のスタジオ、セミナールームなどがあって市民に開放されています。残念ながら大ホールの中に入ることはできませんでした。

ちょっと面白かったのは、旧市庁舎。マリエン広場の入口のゲートのようなところにある建物は塔のようになっています。マリエン広場といえば新市庁舎とその前の広場は、いつでも観光客でいっぱいですが、この旧市庁舎はとても地味で目立たない存在。

塔を上っていくと、街並が見下ろせて眺めがいい。

実は、ここは「おもちゃ博物館」。昔懐かしいレトロなブリキ作りの玩具や、着せ替え人形などが館内の各階に展示してあります。ちょっといいなぁ…という雰囲気で、旅先でのなにかとはやりがちな心を癒やしてくれました。

レジデンツ内も、私自身はじっくりと見学したという記憶がなかったので見て回りました。ここでもちょっと見落としがちなのが宮殿内のクヴィリエ劇場。

王家専用の小さな劇場ですが、ロココ調のとても美しい劇場です。

開演まで時間があるので腹ごしらえ。

よくドイツ料理は不味いと言われますが、私は大好き。確かにバラエティに乏しくビールとソーセージと豚肉料理ばかりですが、私は幸せ。騒がしいブロイハウスは好みませんが、ソーセージ、豚肉料理とビールというケラーハウスや、カモや鹿肉といったジビエ料理専門のレストランなど、連日のバイエルン料理にも食傷するということがありません。

この日は、そうしたミュンヘン名物料理がウリの人気レストランにいきました。

ここは、ミュンヘン名物のハクセ(豚のスネ肉)の豪快なグリルがウリです。

ビールで乾杯。

食事も完食。

ナブッコ」は、ヴェルディ傑作の歴史大作。今回は、ハイドンプロコフィエフなどちょっと変わり種も挟みましたが、やはり、中心はイタリアとドイツそれぞれの雄ともいうべきベルディとワグナー。オペラの王道は外せません。

指揮は、日本でもおなじみのパオロ・カリニャーニ。中堅指揮者のなかでイタリアオペラを振らせては右に出るものがいないといってもよい存在です。ヴェルディの劇的でしっかりとした骨太の音楽に、いかにもイタリアらしい歌に満ちた感情の高まりという音楽が出だしから、最後の最後まで充実しています。

ピット内のオーケストラも、こういうイタリアものをやらせても実に分厚いサウンドで、しかもアンサンブルの統制が取れた正確整然とした響きなので、悲劇の盛り上がりが絢爛豪華です。全盛期のスカラ座とはこういうものだったのではないかと思います。

ここでは、歌劇場の合唱団が素晴らしい。

あの有名な「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」は、虜囚となったイスラエルの民が金網のフェンスの向こうで歌われます。イタリアの第二国歌とも言われる愛国の歌とされることが多いのですが、決してサッカーのサポーターが合唱するような熱烈な応援歌のようなものではないことに気づかされました。静かな、けれども深々とした望郷の念と、切実なまでに帰郷を願う歌。しかも、そこには失われた祖国の名誉の復権と栄華の復興を確信する信念に満ちています。

タイトルロールのディミトリ・プラタニアスは、その堂々とした姿と豊かな声量、見事な演技力で強大な権力の高慢と孤独、愛憎に翻弄され揺れ動くネブガドネザル大王を演じ切っています。

イズマエーレのムラート・カラハンも、単なるイケメンテノールではなくいかにも悩める悲劇の王子を演じていたし、アビガイッレを演ずるリュドミラ・モナスティルスカはさすがの貫禄。モナスディルスカは、先日の「マクベス」でのマクベス夫人役の難しさ、これを当たり役とするソプラノの絶対的な実力について書きましたが、そのことを見せつけるような強靱で豊穣な声、圧倒的に広い声域を駆使した技巧で、この歌劇に絶大な厚みをもたらしています。何とも充実した声楽陣。

演出は、ここでも現代的な前衛趣味のシンプルな舞台ですが、適度に具象性を略して抽象化しつつも衣装などでは陳腐化を避けつつも歴史大作の重厚さを十分に維持していて好感が持てるもの。何かストーリーの時代設定そのものを奇抜に置き換えてしまうことはありませんが、「バビロン捕囚」の場面では、ユーフラテス河畔での場面を前述のように金網の高いフェンスに置き換えるなど現代人のイメージに直感的に訴えるアイデアが活かされています。何よりも歌唱が阻害されず合唱などの群衆の動かし方などにスケールの大きさが加えられていることがよかった。

席は、やはり1階(パルケット)の中央11列目と今回のツアーでは、視界も音響も一番バランスのとれた席でした。しかし、それだけにかぶりつき席の音響の魅力もよく理解できたとも言えます。いずれにせよ本当に素晴らしいオペラハウス。中味はそっくり日本へと引っ越し出来たとしても、この視覚と音響の素晴らしさを東京のホールでの体験で置き換えることはいかに高額チケットであっても《絶対に不可能》だと断言します。

翌日が、このシリーズの最初にご紹介した新作「タンホイザー」でした。この夜は、その前評判で盛り上がるバイエルン歌劇場の真価を見せつけられた思いに満たされ、「タンホイザー」への期待が増幅する一方でした。

(続く)

バイエルン国立歌劇場

ヴェルディ:「ナブッコ

2017年5月27日(土) 19:00

ドイツ・バイエルン州ミュンヘン バイエルン国立歌劇場

(Parukett Rechts Ture 2 Reihe 11, Platz 432)

NABUCCO

Musikalische Leitung:Paolo Carignani

Inszenierung, Buhne und Kostume:Yannis Kokkos

Licht:Michael Bauer

Dramaturgie:Anne Blancard-Kokkos

Chore:Soren Eckhoff

Nabucco:Dimitri Platanias

Ismaele:Murat Karahan

Zaccaria:Vitalij Kowaljow

Abigaille:Liudmyla Monastyrska

Fenena:Anaik Morel

Il Gran Sacerdote:Goran Juric

Abdallo:Galeano Salas

Anna:Elsa Benoit