転校と友だち

 転校二日目。昨日、帰って来たとき、二人とも友達ができた、と言っていた。

 藤吾さんは、センターですでに新しい学校の友だちを作っていたけど、昨日、クラスが発表されて、二人友達ができた、と言っている。藤吾さんと同じ、走るのが大好きな男の子たちらしく、休み時間は走っているらしい。「サミュエルとXXだよ。(私が名前を忘れた)ちょっとバンリュー兄さんだけどね。」

 先生は優しいらしく、藤吾さんは今日帰ってから、先生にあげる狼の絵を描いていた。先生が、一日に何回、藤吾さんに「トレビヤン!」を言うか、ひそかに数えるゲームを一人でしているらしい。

 今朝学校へおくる途中、私たちを早足に抜かしながら、振り向いて「ボンジュール!」と声をかけてきた黒人と白人のハーフらしいかわいい女の子がいた。服装もよく、姿かたちもよい。私は周りを見回して、どう見てもその子はあびに声をかけたらしかったので、そちらを見もせず、返事もしないで黙々と歩くあびに、「知ってる子?」と聞いた。

 「うん。昨日友だちになった。」???「なんで返事しないの?」「気付かなかった。」緊張してるからか、生来のアスペちゃんだからか。

 あびのクラスには、4歳からのダンスの仲間、ヴァランティーナもいる。私は少なくとも、困ったときのママ友に、ヴァレンチーナの母メラニーがいるのはありがたい。

 子どもたちが校門の中に入ると、学校の柵は金属板の目隠しがついているので、校庭の様子は分からない。校庭は道路より少し高くなっていて、大人の腰の辺りの高さに、柵の下部が来ている。柵の金属板と校庭の地面の間に、5cmほどの隙間がある。

 見ると、その隙間から、腰をかがめてたくさんのお母さんたちが子どもたちの様子を覗き見している。見送りには半数にも遠くないパパもいるのだけど、そこから覗き見までして子どもの様子を見守るのは、母だけである。

 転校生でなければ私もそこまでしないんだけど、と自分に言い訳しつつ、私もそれらの心配性の母の列に加わって、今朝は二人の様子を覗いてみた。

 藤吾さんは、ひょろっと背の高い男の子と、藤吾さんくらいの小柄な男の子と楽しそうに笑って立ち話をしている。藤吾さんだけ、相変わらずジェスチャーが大きい。大丈夫そうだな、と思う。担任の先生が、藤吾さんが転校生だと今日まで気付かなかったと藤吾さんは笑っていたから、けっこう落ち着いているんだろう。いろんな活動を学校以外にしている子だから、どこ行っても割りと平気、なのかもしれない。

 あびはなかなか見つからなかった。校門の近くで出会った友達と話していたのかもしれない。しばらくすると、一人でふらふらと校庭の中をさまよっているのが見えた。誰かがあっちへ行きながら声をかける。あびは、それになにやら答えている。それからまたしばらくぶらぶら。

 と、さっきあびを抜かしながら「ボンジュール」と言った子が来て、あびと一緒になった。あびより少し背が高い。そのまま二人でなにか話しながら、子どもたちの塊の中へ消えていった。

 まあまあうまく行っているようだけど、それでも帰ってくるとかなり疲れている。昨日は、頭が痛いとか疲れたとか連発で、宿題や音楽のレッスンがかなりきつい。

 特に体力がなく感じやすいあびのほうが参る。

 でも二人とも食欲はあるようだし、ふさいだりもしていない。

 今晩、お風呂に入ったりしているころ、私の携帯が鳴った。出ると、アリスだ。あびの前の学校の古い友だち。お母さんに言われたのかもしれないけど、電話をくれて、しばらくあびは話し込んでいた。誰がどの先生のクラスになったとか、誰がアリスと同じクラスかとか、いろいろ聞いたようだ。受話器を手に、とても嬉しそうだった。

 7月にできなかった二人のお誕生日会を、前の学校の友だちを招いて今月やろうと思っている。