海辺の生と死

透き通る海と空、根と枝が絡まるガジュマルの大木、愛と人生の切なさを歌う島唄。数十秒から数分にわたる長いショットの連続は登場人物の心の奥まで覗き込み、容赦なく死と隣り合わせで生きる彼らの繊細な感情をあぶりだす。

監督 越川道夫

出演 満島ひかり/永山絢斗/井之脇海/川瀬陽太/津嘉山正種

ナンバー 98

批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

透き通る海と空、根と枝が絡まりながら伸びるガジュマルの大木、愛と人生の切なさを歌詞にした島唄。覚悟はできている、もうすぐその時が来るのも分かっている。ならばわずかな時間でも命の炎を燃え上がらせたい。物語はそんな望みを胸に抱く特攻隊中尉と島の娘の関係を描く。戦争は敗色濃厚、だが時折軍用機のプロペラ音が聞こえる以外は変わり映えしない島、本土から来た軍人は島民にとって近寄りがたい存在でもある。それを知っているから中尉は子供たちになじもうとし、ヒロインにも丁寧に接する。彼女もまた難しい本を読みこなす帝大出の彼に惹かれていく。数十秒から数分にわたる長いショットの連続は登場人物の心の奥まで覗き込み、容赦なく死と隣り合わせで生きる彼らの繊細な感情をあぶりだす。

奄美諸島の小さな島、国民学校で教鞭をとるトエのもとに朔中尉が訪れ、兵員の教育用にと実家の本を借りていく。その後、酒宴で軍歌より地元言葉の歌に興味を示す朔に、トエは今までに経験のない魅力を覚えていく。

夜、浜辺の塩焼き小屋に呼び出されたトエは人目を避けて海岸から忍んでいく。しかし、なぜか朔は姿を見せず、トエは思いを込めたハンカチを小屋に残していく。次の夜、今度は現れた朔とトエは熱い抱擁を交わす。かつて婚約者がいたというトエだが、戦争で周囲に若い男がいなくなり、このまま年を重ねる前に身を焦がす恋に落ちてみたかったのだろう。彼の任務には気づいている。彼の面影を脳裏に深く刻み彼にも同じことを求めるトエの気持ちが、抑制されたトーンの中で緊張感をみなぎらせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて沖縄が陥落、トエの島にも敵機が襲来する。いよいよ出撃命令が近いと悟った朔はトエと別れようとするが、トエは最後まで彼を愛しぬく決心を口にする。最期の夜のために行水し喪服に袖を通すトエは、叶わないからこそ殉じたくなる恋の崇高さを象徴していた。そして、死ぬべき時に死ねなかった朔のバツの悪さが、一言だけの手紙に凝縮されていた。

オススメ度 ★★*